デス博士の島その他の物語「デス博士の島その他の物語」ジーン・ウルフ久々のSFだ。 デス博士の島その他の物語 華麗な文体、凝った世界観、衒学趣味など、色々言われている作家である。ディレーニー程難解ではないが、聖書や他の文学作品の知識があると、より楽しむことができるのだろう。いわゆるストレートなSFは、「死の島の博士」ぐらいであり、「文学者の手によるある種の寓話小説」といった雰囲気を感じさせる。 そもそも翻訳SFで知らない作者、名前のみ先行している作家などの作品を読む場合、訳者を一つの基準にしている。浅倉久志、伊藤典夫の両者が訳している場合、自分の好みに合わないことはあっても、駄作・凡作は少ない。今回も両者が訳しているので、読んでみる気になった。 「まえがき」 絶版になってしまった「ヒューゴー賞傑作選」のアシモフ、「危険なビジョン」のエリスンなど、作品よりもまえがきや解説の方が面白いことがある。実は、本書のまえがきは作品のひとつ。「現実」と「虚構」の境界が曖昧となったまま語られている。エッセーを読んでいる内に知らず知らず短編小説を読む結果となってしまう。まえがき内小説「島の博士の死」は、ブラッドベリが書きそうなちょっとしたいい話だった。 「デス博士の島その他の物語」 「モロー博士の島」を彷彿させる作中作小説の登場人物が現実世界に登場し、現実と虚構が入り交じる。よくわからないまま終わってしまい、読後感は「?」二人称の視点で進む話は、苦手。 「アイランド博士の死」 SFらしい。木星の軌道上に人工的に作られた大きな矯正施設に放り込まれた少年の物語。こんなことまでして、矯正する価値があるのかね。ジョン・ヴァーリイの8ワールドを思い出してしまった。 「死の島の博士」 これは判りやすい内容だった。でも、話す本というアイデアなら、ゼラズニイの「ロードマークス」に登場する「悪の華」などの方がよかったな。限られた材料?でどうやったら、あんなプログラムが作れたのか、そっちの方謎の方が気になった。 「アメリカの七夜」 荒廃したアメリカと訪れたバクダットの青年の冒険譚。アメリカが自由の国でよかった。アメリカとイランを置き換えた話だったら、今頃どうなったことだろう?主人公の現実の体験談とドラッグによる幻覚の区分けができず、運命の女の正体もわからないまま。とにかく曖昧さがこの作者の特徴なのかも知れない。 「眼閃の奇蹟」 不思議な能力を有する盲目の少年と、奇妙な人達との交流・道中もの。 「オズの魔法使い」のオマージュ。基本設定はまるで違うけど、トム・リーミイの大傑作「サンディエゴ・ライトフット・スー」を彷彿させてくれた。想像上(=夢)の世界と現実世界が、曖昧となっていて、目くらましにあったよう。 どの作品も「ヲタク研究」が十分できるよう、技法やストーリー上の仕掛けがあるのだろうけど、純粋に面白い話を読みたいだけなので、深い解釈は行わず。基本的にハッピー・エンドが好きなので、て「死の島の博士」「眼閃の奇蹟」の読後感は良かった。 ジャンル別一覧
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